大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(う)892号 判決

被告人 荻原泰茂

〔抄 録〕

所論にかんがみ、原判示第一横領の事実(被告人に対する本件起訴状記載公訴事実第三)に付按ずるに、記録及び証拠物を精査し、かつ当審において親しく事実取調をした結果を加えてしさいに検討してみると、被告人に対する本件起訴状記載公訴事実第三によれば、「被告人は井内正一及び高橋清と共謀の上、昭和三十一年十二月上旬頃篠崎昌太郎所有の立木約二百石を高橋清に対し四十五万円にて売却の斡旋名下に西塚幸三郎に対し四十六万五千円にて売却の斡旋をなし、同人より内金として十万円を受取り、その内八万円を篠崎に渡し、さらに同月十一日頃右西塚より右立木代金の残金として三十六万五千円を受取り篠崎には先の内金の一部と合せて三十七万円を渡すべく預り保管中その内七万円を被告人らの用途に費消しようと企て、その頃千葉県山武郡大綱白里町大綱一三九番地の被告人方において篠崎昌太郎に対し、既に西塚より立木代金の全部を受取り保管しているのに拘らず、同立木の買主は高橋清であり同人は三十七万円の残代金を持参すべきところ予定どおり集金ができず、本日は三十万円しか集らなかつたから三十万円だけ受取つて貰いたい、残金七万円は一〇日程猶予してもらいたい旨虚偽の事実を申し向けてその旨同人を誤信せしめ、因つて同人に渡すべく保管中の三十七万円中より七万円を着服してこれを横領したものである」というのであるが、被告人、原審相被告人井内正一及び関係人高橋清の原審公判廷における供述記載及び右井内、高橋の当審における証言によれば、右立木約二百石右三名が共同して高橋清が買主となつて篠崎昌太郎より代金四十五万円にて買受け、これを被告人が売主となつて西塚幸三郎に代金四十六万五千円にて転売したものであり、被告人が西塚から受取つた内金十万円のうち八万円を高橋から篠崎に内払いし、残代金三十六万五千円を被告人が西塚から受取つて高橋に渡したが、被告人と井内とが高橋に七万円の融通方を依頼したところから、三名で相談して篠崎には残金が三十万円しか集金できないと嘘をついて残金七万円は十日程支払猶了を乞うて同人には三十万円だけを渡し、高橋から被告人及び井内に七万円を貸すことにして利息がわりに五千円差引いて六万五千円を渡したものであつて、右三名が共謀の上占有している他人所有の現金を横領したものではない旨主張し、関係人篠崎昌太郎及び西塚幸三郎の原審公判廷の供述記載及び当審における証言並びに押収の追契約書、誓約書及び領収書(東京高等裁判所昭和三四年押第七二五号の一から三まで)に徴すれば、右主張事実を容認できるところである。

従つてよしや被告人らが篠崎に対して本件七万円につき前示のごとき嘘をついて支払猶予を受けたとしても、これはひつきよう同人に対する債務不履行たるにとどまるものというべきである。果して然りとするならば、右事実につき横領罪の成立を認むべき証拠ありとするに由ないものといわなくてはならない。しからば原判決が右公訴事実について原判示第一のごとく横領の事実を語つて認定しこれと判示第二の詐欺の各罪との間に併合罪の関係ありとして被告人を処断したものであるから、右事実の誤認は、まさに判決に影響を及ぼすものというべく、論旨は理由があつて被告人に対する原判決は破棄を免れない。

(尾後貫 堀真 下関)

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